うっかり忘れてしまっていたことを思い出し、かばんの中にあるスマホを取り出すと、また窓の方へ近づくとそこに背もたれる。

自分のページへ行くと、フォローの数字が1に増えている喜びを噛み締めて、わずかに口元が緩む。
あお先輩のアイコンをタップして、ページへ飛ぶと、同じようにフォローボタンを押そうとする。

だが、勇気が出なくて手が震える。
なかなかボタンを押せずにいた。

壁に掛けてある時計の針の音が、チッチッチッと正確な時間を刻んでゆく。
一秒一秒過ぎるたびに、私は急かされている気になる。


「──あれ、まだ花枝いたのか」


そう声が聞こえた瞬間、ビクッと肩があがり、その反動で私はフォローボタンを押してしまった。


「あああぁぁ……っ」


しまった、やってしまった。
心の準備もできていなかったときに、失態を起こしてしまうはめになり私は軽く、いやかなり落ち込んだ。


「どうかしたのか?」
「……いえ、なんでもないです」


そんなわけがない。
たった今、先生が驚かしたせいで心の準備ができていなかった私の指先が勝手にフォローボタンを押してしまったのだ。
なんてこと、先生には言えないし。
心の中で盛大にため息をもらすと、SNSを閉じた。


「それより先生、何かあったんですか?」
「ん? …ああ。見回り当番なんだよ。だから残ってる生徒がいないか見てまわってた」


教室に入って来る先生はメガネをくいっと持ち上げながら、窓の方へと歩いて来る。
そういえば、この前先生にチョコレートもらったっけ……。
なんかあのとき言われた言葉とか頭ぽんぽんとか、リアルに思い出すと恥ずかしくなってきてわずかに顔を逸らす。


「おお、夕焼け綺麗だなー」
なんて言いながら私の方へ視線を向けた先生は、ほら花枝も見てみろ、と窓の外へ指を差す。