「…じゃあ、あお先輩は初めから私のこと分かった上で話しかけたってことですか?」
恐る恐る尋ねてみれば、「うん」となんの躊躇いもなく頷いてみせた先輩。
「だから全然偶然なんかじゃないんだけどね」
あまりにもさらっと返されて、一瞬反応が追いつかなかった。
「今まで黙っててごめん」
「え、あ、いえ」
今言われるまで全然気づかなかったし、私のSNSを見られていたなんて夢にも思っていなかったけれど。
「でも私、あのときの人があお先輩だったなんて今でも信じられません…」
「まあ、だよね」
口元を緩めた先輩は。
「だってもう半年くらい経つから覚えてなくて当然だよね」
「どうしてわざわざSNSで話しかけたんですか?」
「ん?」
「だって同じ学校ならいくらでも話すタイミングあったはずなのに…」
「俺がいきなり七海に話しかけたら驚かせるだけでしょ。なんなら要注意人物に認定されかねないし」
同じ学校に通っている先輩が話しかけたからって、そこまでは疑わないけれど、と言葉を飲み込んだ代わりに。
「だったら、初めから名乗り出てくれればよかったのに…」
思わず口をついて出た。
「それはできないでしょ」
「え?」
「SNSで名乗り出たからって七海が信じるかどうかなんて分からなかったし」
そう言われて、あの頃の自分を思い出すけれど、人をすぐに信用できるほど私の心は安定していなくて、思い出なんて何一つない。
その代わりに色褪せた記憶ばかりが頭に浮かび、私は苦い思いをした。