「娘がいなくなって探さない親がどこにいるんだ」

呆れたように笑われる。

「……いるかもしれないでしょ」

私は子どものようにそっぽを向いてボソッと呟いた。


「俺はそんなことしない」


どこにそんな自信があるんだろう、なんて思っていると、

「だって母さんと約束したからな」
「約束…?」

コクリと頷くと、お父さんは、

「何があっても七海を守り抜くって母さんと約束したんだ」


その言葉が私の記憶を手繰り寄せると、心の奥に閉じていた扉が開いてそこからお母さんの声が聞こえてきた、気がした。

だから私はブレスレットをさらにぎゅっと握りしめる。
──大切に、大事に。


「……そんなの全然知らなかった」
「まあ、七海には言ってなかったからな」


言葉を短く切ったあと、それに、と言葉を続けると、

「見えないところで娘を守るのが俺たち大人の役目だからな」

笑ってお父さんがそう言うと、

「ええ、そうね」

早苗さんは泣きそうに笑った。


「ママ〜」


ふいに、声が聞こえて一斉に視線を向ければ、目を擦りながらトタトタと歩く美織ちゃん。


「美織」

早苗さんは、駆け寄る。

「どうしたの?」
「こあいゆめみた」
「怖い夢?」
「うん」

どんな夢、とは尋ねなくて、そっか、と眉尻を下げた早苗さん。

私はおもむろに椅子から立ち上がると、美織ちゃんの元へ近づいて

「美織ちゃん」

かがむと、私に気づいた美織ちゃんは早苗さんに擦り寄った。
よっぽど怖がらせてしまったみたい。


「あのね、さっきのことなんだけど」

あまり怯えさせないように、言葉をゆっくりと呟いて、

「いきなり怒鳴ってびっくりさせちゃったよね。ごめんね」

口調を柔らかくして言うと、顔を覗かせて私を見つめた。