「規律、礼」


四時間目の授業が終わる合図のあと、一斉にバラけるクラスメイトたち。
購買へ駆けてゆく人や、その場で食べる人たち、みんなそれぞれのお昼休みを過ごし始める。

私は、当たり前のようになんの違和感も感じることなく、テーブルを移動させると、そこに二つのテーブルがガタッとぶつかった。
そしてそこに座ると、お弁当を広げて他愛もない会話が繰り広げられる。


「英語ほんっと意味分からないから眠くなっちゃってほとんど寝てたんだけどー」
「だよねえ。日本人なのに英語を習うとかほんと意味分かんないもん!」


入学したときから一緒にいる友人たちが、お弁当を食べながら、ほんの数分前まであった授業について喋りだす。
私は二人の他愛もない会話をうんうん、と聞いて笑顔を浮かべる。


「でもさぁ満井先生の声、イケボだよね〜!」
「分かる〜! イケボすぎて逆に授業に集中しすぎて寝ちゃうんだよね」


私が何かを率先して話題を提供することはほとんどない。その代わり、その場の空気を乱さないように努めることが、私自身に課せられた暗黙のルール。
とはいっても、自分で作っているルールというだけで、そこには何の権限もなく、ふつうに喋っても何も問題はないのだけれど。

二人の会話を聞きながら、パクリと卵焼きを摘んで食べる。
私は一瞬、お弁当のおかずにだけ意識が向いて、耳にはフィルターがかかったかのように、二人の会話はすり抜ける。


「七海!」


ポンッと肩に手が添えられたと同時に、耳にかかっていたフィルターが弾けたように消える。
目をぱちくりさせた私は、一瞬何が起こったのか分からなくて数秒意識が停止したあと。


「な、なに?」

ようやく頭が働いて返事を返す。
身体の中はどきどきと疾走する。


「だからー、満井先生の声イケボじゃない? って聞いたんだけど」
「…あ、ああ、うん。素敵な声してるよね」


満井先生の声がイケボだと聞いて、そのことだけで何の話をしていたのか理解できた私は
咄嗟に言葉を取り繕って、笑って見せる。
けれどそんな私を怪しんだ二人は、ほんとに聞いてた? と疑い始める。