みんな、いい人だったなあ。

 エレベーターホールで病棟のナースコールの音を遠くに聞きながら振り返る。

 そう、人はよかった。たまに気難しい人とか、人としておかしな人もいたけれど、基本的にイジメもなく、みんなで協力し合って仕事ができていた。

 じゃあどうして辞めるって? ずばり、人が少ないのと、パワハラがあったから。

 まずひとり頭の仕事量が半端なかった。四十五床ある病棟で、日勤の看護師ひとり頭六人も七人も受け持ち患者をつけられる。

 他の病院や病棟では、ひとり三~四人程度が普通だ。あんまり受け持ち患者が多いと、回り切れないどころか、忙しすぎて事故が起きる可能性もある。

 だけど、病院側はいざ事故が起きるまで、人員体制を見直そうとはしない。忙しい病棟もそうでない病棟も、平等に看護師を配属する。

 どこでもそうなのかもしれないが、上は現場の状況をわかっていない。

 看護師が心身共にすり減らして頑張っているのに、上……つまり看護局は
「もっと能率を上げて残業減らせ」としか言わない。

 それに合わせるかのように、師長も「定時で帰るという気持ちを持って、頑張りましょう」と、休憩室に看護師別の残業時間表を貼り出す始末。

 なんだよ気持ちを持つって。重複表現じゃないのか。