次の食事は根菜ときのこの豚肉炒め物とブロッコリーとツナのサラダ、その次はマーボー豆腐と春雨サラダ、その次はぶり大根と筑前煮。手を変え品を変え、佳亮は薫子に手料理を振舞った。その度ごとに薫子は新鮮に「美味しい!」と喜んでくれて、佳亮は月に二回の料理の日が楽しくなってきてしまった。
女性だからどうかと思っていたが、薫子は男性が好むようながっつりとした肉料理も喜んで食べるので、一緒に食卓を囲んでいて困らない。振舞うメニューは回を追うごとに増えて、もう最初の頃何を作ったか思い出せない程だった。
そんな中、佳亮は今日も昼に持参した弁当を独り食べながら、次は薫子に何を作ってやろうかと考えていると、外食してきた同僚が声をかけてきた。
「ようよう杉山。一人で自作の昼飯食ってねーで、たまには外飯付き合えよ」
そう言うのは中田原(なかたわら)。開発部の一員で、入社時からの付き合いの同僚だ。
「えっ、杉山、それ自前の弁当? すげー完成度じゃん。俺、彼女の手作りかと思ってたわ」
これは長谷川。経理部の一員で、大阪支店から転勤してきて二年目だ。同い年ということで、中田原や佳亮とよく話す。
「そうなんだよなー。俺もこいつの手作りだって知ったときはびっくりした。こんな細かいこと、良く出来るよなあ」
細かいこと、というのは多分、ブロッコリーにチーズをかけてトースターで焼き目を付けたこのおかずのことだろうと思う。他のこのコロッケや、アスパラのベーコン巻きは、昨日の残りを詰めただけで、手をかけていない。
「いやいや、そもそもコロッケ自分で作るとか! もう俺なんて総菜コーナーだよ」
「俺だってそうだよ。揚げもんのあったかいのなんて、店で食べたほうが美味しいもんなあ」
同じ独身の男二人が盛り上がっている横で、佳亮は黙々と弁当を食べていた。
「だから女に振られちまうんだろうなあ。俺が女だったら、そんな料理上手と比べられたらたまんねーもんなあ」
「いっそ、家事料理壊滅的な女と付き合えば、ありがたがってくれるんじゃね? むしろ離してくれないと思うぜ」
家事料理壊滅的、と言われて薫子を思い出したが、彼女は佳亮にとって恩人であって、そういう対象ではない。薫子もそれを分かっていて佳亮を利用している。利害が一致して食卓を囲んでいるだけであって、男女の仲に発展するとは思っていない。だから、二人に言えるのは、
「そういうわけで、俺は女性受けが悪いんやから、合コンなんかに誘わんといてな。どうせ、珍獣を見るような目で見られんねんから、こっちもイラつくだけやし」
ということだけだった。佳亮の事情を知っている二人は佳亮の言葉を聞くと、へいへい、と頷いて去って行ってしまった。全く、会話のせいで弁当が不味くなってしまった。佳亮は残りの弁当を口に運ぶと、お茶を飲んだ。