薫子との食事のあと、一緒にコンビニにコーヒーを買いに来て、店内に貼ってある桜祭りのポスターを見つけた。

「そっか。もうそろそろ花見の季節やなあ」

ぽつりと呟くと、薫子がその言葉に反応した。

「お花見かあ…。毎年家族で家の桜を見ているわ。祖父がもう年だから、人ごみには行けなくて、久しく公園とかで家族のお花見してないのよ。それが惜しいわ」

薫子の言葉から、家族のことを大事にしていることがうかがえる。そういう薫子のことが好きだった。佳亮は相槌を打ちながら、桜並木、良いですよね、と応じた。

「桜は祖父が好きな行事だから、どうしても家族と一緒に見ることが第一優先になっちゃうのよね。会社の人たちとも行こうって話が出たんだけど、おじいさまが待ってらっしゃると思うとやっぱり家に帰りたくなってしまって」

そうだったのか。気軽に誘える感じじゃないけれど、ダメもとで佳亮は薫子を誘ってみた。

「良ければ、一緒に見に行きませんか? 上野の桜とか、中川の桜とか、色々選べますし。勿論、おうちの了承が取れたら、ですけど」

「えっ、祖父が良いと言えば、是非行きたいわ」

薫子が目をキラキラさせて佳亮を見た。でも、まずは家族、特におじいさんに同意を得ることからだ。

「大丈夫よ、小さな子供でもあるまいし。でも一応家には一日席を外すって言っておくわ。おじいさまががっかりされると申し訳ないから」

「そうですね。そうしてください」

嬉しそうに笑う薫子に念を押した。家族の時間って、無限にあるようでそうでもない。特に一人暮らしをしている薫子なら尚更だろう。だから薫子の家族は花見を口実に、毎年親密に集まっているのではないかなと推測した。それでも薫子と一緒に桜を見られるのであれば、それは楽しい花見になるだろうなと思った。



ところが思わぬ方向に話が転んだ。大瀧家の花見に佳亮が招かれたのだ。薫子はとても申し訳なさそうな顔をしていた。望月との婚約が破棄にした理由を聞かれたのだという。

「うう、厳しく追及されそうですね……」

薫子の交際相手として、佳亮はあまりにも平凡だ。家族が良い顔をしないのは、当たり前だろう。薫子の表情も冴えない。

「せめて、何かお土産を持って行きましょう。ご家族の好物とかありますか?」

「おじいさまは筑前煮が好きなのよ。今も平田に別で作らせるくらい。でも一番好きなのはおばあさまが作られた筑前煮ね」

それはまたハードル高いな。煮物はただでさえ家庭ごとで味が違う。

「おじいさまがすっぱい味がお好きで、おばあさまが工夫されたって聞いてるわ」

筑前煮に酢を入れる家庭もある。鶏肉のくどさが薄れて食べやすいと言われるらしい。

「取り敢えず酸味を利かせたお弁当でも作ってみます。薫子さんに対する誠意だけは持っているつもりなので、頑張ります」

薫子が複雑な顔で、なんて言ったら良いのかしら、と呟いた。佳亮も薫子も、楽観できない壁だなあ、と感じた。