年が明けて、新年が来る。佳亮は年末三十日に実家に帰省していた。

実家は旅館を営んでおり、今年は開業四十五周年移築二十周年という記念の年こともあって、特別キャンペーンを打っていて、宿泊客が多かった。大わらわする父母弟妹に交じって、佳亮も裏方の仕事を手伝っていた。

そんな忙しい中、三日のお昼二時にようやく家族が揃って居間に集まることが出来た。テーブルを囲んでみんなで残りのおせちを食べる。何故残りかと言うと、元旦から暇を見つけて一人ずつ食事に抜けた時につまんでいるからで、でも家族が揃う三日には残そうという意識の表れで、こうやって残り物のおせちが出来上がるのだ。

「今年は葉月が彼氏を紹介するって言うてるから、佳亮もちょっとスケジュール考えといてな」

言うのは母だ。佳亮に料理を教えたのは母で、だから味付けも関西風の味付けになっている筈だが、薫子は嫌な顔はしなかった。

「彼氏の紹介くらいで帰ってられへんよ。婚約と結婚決まったら連絡してや。こっちも忙しいねん。葉月、エエ人見つけたんか」

佳亮が葉月を見ると、葉月はふふふ、と頬を緩めて微笑った。

「お兄ちゃんくらいエエ人」

「それ、大丈夫なん?」

茶化して笑うのは弟の大輝(だいき)だ。学生の頃、葉月と大輝の世話をしたのは殆ど佳亮だった。

「そういう大輝はどうなん。大学、今年で卒業やろ」

「ばっちし。任せといてや。でも、就職先が大阪やから、引っ越そうか考えとるところ」

「引っ越したらおとんとおかんが大変になるやろ。残ってやりぃさ」

佳亮が大輝に言うのを父が構へん、と止める。

「長い休みの時に手伝うてくれるんやったらそれはそれで助かるけど、普段は従業員でまわっとる。佳亮もいらん心配せんでエエ」

ぐいと日本酒を飲む父に葉月がお代わりを注ぐ。こういうところを見ると、葉月は良いお嫁さんになると思う。お兄ちゃんは? と視線で問われて、要らない、と返す。

「それよりお前はエエ話は出てけーへんのか。東京に行って、もう六年やろ」

父の言葉に照れる。実はな、と言うと、父より母の方が反応した。

「あらやだ。あんた恋人出来たん? 学生時代あんだけ振られまくってた佳亮が? 何処のもの好きなん」

「おかん、ひどいわ。時間できたら連れてくるから会うてくれるか? エエ人やで」

家族に薫子のことを話すのは本当に照れる。葉月もこんな気持ちなのかな、とちょっと思った。

「ま~、ホンマに? 佳亮の振られ癖はお母さんの所為やと思てたから、ホンマなら嬉しいわあ」

「おかんのおかげで実ったんやで」

あらまあ、と目をくるくるさせてる母に、早く薫子を会わせてやりたい。身長には驚くかもしれないけれど、話せばすぐにいい人だって分かってもらえる筈だから。

「連れてくるときは言いなさい。部屋を一部屋用意したる」

父がそんなことを言った。きっと、この旅館を誇りに思っているからだ。佳亮も是非そうしたいと思う。

「うん、連絡するな。楽しみにしといて」

目じりの皴が深くなった両親に、今年は良い親孝行が出来そうな気がした。その為にも、望月とは一度ちゃんと話してみなくてはいけない、と思った。