「……実は、本当はですね……」

佳亮は薫子に種明かしをする。

「今日、お店を予約してたんです。……クリスマスイブだからと思って」

ぱちりと、もう一度薫子が瞬きをする。

「でもこの前薫子さん、自分のことを『看板』って言わはったでしょう? あれがどうしても気になってもうて……。……僕は、先刻みたいに僕の作った料理を美味しいって言うて一緒に食べてくれる薫子さんを好きになったので……、……それはこれからも変わらないってお伝えしたくて、お店はキャンセルしました」

「……、…………」

佳亮は言葉を継いだ。

「僕にとって、薫子さんは薫子さんなので……。おうちとのことはこれからどうにかしなきゃいけないことですけど、それが理由で好きになったわけでも嫌いになるわけでもないです。……今日はそれをお伝えしたくて……。……すみません、本当ならあの時にそう言えたらよかったんですけど、あの時は僕もちょっと衝撃が大きかったので……」

佳亮が言うと、薫子は首を振った。

「ありがとう、佳亮くん……。あの時は仕方ないわ。私も情けないところ見せちゃって、ごめんなさい」

頭を下げた薫子に、佳亮は慌てた。

「情けないなんて、そんなこと言わないでください。強くてカッコいいのは薫子さんの美点ですけど、だからと言って、僕の前でまでそうでなきゃいけないことは、ないです」

勿論、無理に弱音を吐けと言ってるわけではないですけど。

あくまでも自然体で居て欲しいだけなのだから、薫子にはこれからも飾らないで居て欲しいと思う。そう伝えると、嬉しいわ、と薫子が言った。

「やっぱりこの部屋に住んでよかった。佳亮くんに会えたもの」

薫子が振り返って窓の方を見る。あの時、ベランダに居た薫子を佳亮が見つけた。あの時に薫子が降りてきてくれなかったら、この恋は始まっていなかった。やはり薫子の行動力でこの恋が始まっている。家を出て一人暮らしをし始めたのもそう。卵を落とした佳亮のところへ降りてきてくれた時もそう。オムライスを作ってくれた時もそう。全部全部、薫子が行動してくれたからだ。

「薫子さんばっかりに任せていられませんね。僕も、行動しないと……」

佳亮の言葉に、薫子がふふ、と微笑った。

「佳亮くんは、何時だって私のことを支えてくれてるわ」

そうですか? と問うた佳亮に、薫子がそうよ、と返す。

「私が私のままで良い、って気付かせてくれたの、佳亮くんが初めてなのよ」

社長だって知られた後も、あの屋敷を訪れてくれた後も、佳亮は変わらなかった。それが救いだったと言う。

そんなことで良かったのか。若干気が抜けてしまうが、お互い素の部分を必要としているのなら、それが一番いいのかもしれない。佳亮はそう思った。