「杉山。やっと来たなら、彼女紹介してくんなきゃ」

「自分だけ楽しんでんなよ」

話し掛けられて気付いた佳亮が、ああ、と応じようとすると、それより先に薫子が立ち上がって自己紹介をした。

「大瀧薫子と言います。杉山くんにはいつも親切にしていただいています。ご同僚の方ですか?」

立ち上がった薫子の身長に二人が驚く。佳亮も最初はこの上背から男だと思っていたから仕方ないとはいえ、本人を前にあからさまにびっくりした顔をするのはどうなんだろう。

でも薫子は気にしない様子で微笑んでいた。会話を向けられた二人も薫子に挨拶をする。

「中田原と言います。杉山くんとは入社当時からの付き合いで、時々男連中で飲みに行きます。杉山くんは女性が居る席には参加しないので、安心して良いと思いますよ」

「僕は大阪から来てまだ二年ですけど、杉山くんとはよく話します。長谷川と言います。中田原の言う通り、杉山くんは会社では女っ気がなかったので、どんな方を連れてくるのかって中田原と話してたところです。おきれいな方で杉山くんが羨ましい。うちの会社のクリスマスパーティーは皆さん気さくに参加してくださるので、楽しんで行ってください」

二人の言葉に薫子がありがとうございますと応じる。丁度ロシアンルーレットを始めるという進行役の声が聞こえて、二人は席へ戻って行った。テーブルごとに用意されたショットグラスに赤色の液体が入っている。一つを除いてトマトジュースで、残りの一つはハバネロだ。

「私、辛い物も平気だから、これは当たっても大丈夫だわ」

薫子が笑ってそう言った。そう言えば韓国料理は出したことがなかったな。今度チゲ鍋でもしてみようか。この前の鶏団子鍋と同様、あたたまって良い気がする。そう薫子に提案すると、楽しみだわ、と嬉しそうな笑みが返ってきた。

大きな音で音楽が鳴る中、ショットグラスが全員に行き渡る。進行役が「メリークリスマース!」と掛け声をかけて、皆で一斉にグラスの中身を飲んだ。佳亮もごくっと飲み込……もうとしてむせた。

「かっら!!」

当たりだったのだ。隣で薫子が笑っている。

「げほ……っ! ごほん、ごほん!」

むせている佳亮に薫子が水の入ったグラスと紙ナプキンを取ってくれる。ありがとうございます、と涙目で受け取ると、薫子が笑った。

「佳亮くん、チゲ鍋、大丈夫?」

ひりひりした口の中を水で潤しながら、ハバネロは飲むものじゃないので、と辛うじて返した。

「そうね。でも佳亮くんがそんなに辛いなら、グラスを変えてあげればよかった」

「まあ、そういうゲームなので……」

先に食事をしておいてよかった。この舌のひりつきでは、この後何も食べられない。

「佳亮くん、甘いものはどう? 少しは辛いのと中和されないかな?」

ハバネロの辛さにやられて舌に刺激を与えたくない。とろっと蕩けそうなものと思って、はちみつヨーグルトをもらうことにした。薫子は色とりどりにトッピングされたカップケーキやチーズケーキを持ってくる。織畑も一緒にこちらに来ていた。