「そういうわけで、ケーキを買ってあるのよ」

一通り自己紹介と雑談を終えたところで、織畑が可愛いお皿にケーキを盛って運んできた。

「杉山くんも、流石にケーキは作らないでしょう」

そう言われて苦笑する。確かに作れない。

「出来ない所を見せてあげるのもやさしさよ」

織畑が言うので、そういうものか、と納得した。

「大瀧さんも、良ければどうぞ」

そう言われて薫子は栗のタルトを選んでいた。佳亮は巨峰のムースだ。

「薫子さん、栗好きですか?」

沢山のケーキの中から栗のタルトを選んだのだから、きっと好きなのだろうと思うと、うん、という返事が返ってきた。

「じゃあ、時期になったら栗ご飯でもやりましょうか」

「良いわね。手伝わせて」

最近薫子は、オムライスだけじゃなくて料理を手伝うとよく言うようになった。佳亮の為にしてくれようという気持ちが嬉しいので、一緒にキッチンに立ったりすることもある。

「良いですね。二人で作りましょう」

佳亮が薫子に笑いかけると、「ほら、こういうところを見習って」と織畑が佐倉に言っていた。

「僕は料理は全然出来ないから役に立たないよ」

「姿勢が大事よ。手伝おうとする姿勢」

まいったな、と佐倉が困り顔になって、その話は終わった。帰り際に織畑と薫子がラインを交換していた。



「楽しめましたか?」

帰り道に佳亮は薫子に尋ねた。急に見知らぬ人の家に招かれて緊張していたから、心配だった。

「うん、楽しめたわ。私、家を出てから会社の人としか交友がなかったから、新しい知り合いが出来て嬉しい」

「そうですか。なら良かった」

微笑み返してくれる薫子にそう言う。

「…私も何時か…、佳亮くんのご両親に、お料理振舞わなきゃいけないのかしら…」

並んで歩く道すがら、薫子がそんなことを呟くので、気にしないで、と言った。

「まだ先のことなので心配要りませんが、両親は僕のことよく分かってますし、薫子さんのこともきっと良く分かってくれます」

「そうだと良いけど…」

料理の腕は、どうしたって佳亮のほうが上だから、其処は両親を納得させるつもりだ。薫子に無理強いをするつもりもないし、薫子の為に料理を作れるなら嬉しいだけだから困ることはない。

「それより、僕のほうが問題ですよ」

「なにが?」

薫子がきょとんとして言うから、佳亮はちょっとため息が出てしまう。

「あんなお屋敷に住んではる薫子さんのご両親に、僕が受け入れてもらえるかどうかの方ですよ」

ううーん。以前話した両親の反応を思い出して、薫子が唸った。

「大問題だなあ…」

肩を落とす佳亮を薫子が励ます。

「私も両親を納得させるわ」

薫子はそう言ってくれたけど、やっぱり大きな問題だった。