「…………………、………」

…………は…? なんだって…?

一瞬呆けた佳亮に、真剣な瞳をした薫子が迫ってきた。

「こんな、女の屑みたいな私だけど、好きな気持ちは、本当なの……。料理教室を逆手に取るようなことしてごめんなさい。…でも、あれがないと、佳亮くんに会えなかったから……。…でも、もう良いの。気持ちを伝えられただけで、満足だわ…。今後は…、…佳亮くんと彼女の邪魔はしない」

きっぱりとした口調で薫子が言う。

………。

……ちょっと待って。脳みその処理が追いついてない。大体、薫子は最初に思ったように美形なのだ。女ということを勘案して美人と表現しても良いけれど、要するに整った顔の人に真剣なまなざしで切々と訴えられると、それだけで脳みその処理能力がパンクする。

佳亮は状況を把握しようとしてかぶりを振った。

「待ってください、待ってください。薫子さんには恋人がいますよね? その方はどうしたんですか? それに、僕の彼女って?」

この前見た光景が脳裏をよぎる。あの時、確かに薫子は上体を屈めて運転席に顔を寄せて何か話をして、そしてドライバーとキスをしていた。あの人は恋人じゃないのか? もしかして別れたとか? それに佳亮の彼女とは、どういう意味だろう?

佳亮の言葉に、心底思い当たらないというきょとんとした顔で、薫子が、こいびと? とおうむ返しに問うた。

「そう、恋人! この前、ランボルギーニで帰ってきた薫子さんとキスをしてたでしょう!」

佳亮の言葉に、漸く合点がいったというような表情(かお)の薫子が、佳亮の疑問に答えた。

「ランボルギーニ…? 兄のことかしら…」

あに…? お兄さん……?

「お…っ、お兄さんとキスしたりするんですかっ!?」

「するわ。家族ならするものじゃないの?」

急転直下。まさかの展開。恋人だと思っていた人が兄だっただなんて。ブルジョワの生活習慣に佳亮は頭を抱えた。

あんなに悩んだのに!

そう訴えたかったけど、薫子が項垂れた佳亮を心配そうに見てきたから、それも出来ない。

「それで…、…彼女の居る佳亮くんに聞くのは、変かもしれないけれど…、佳亮くんは、私のことを、どう思っているのか、…聞いても良いのかしら……」

言葉尻こそ控えめだが、目がキラキラしている。佳亮に彼女が居ると言いつつ、これは確信しているな。そうだとも! 惚れているとも!

「この展開で、言わなきゃ分かりませんかね?」

嫌味っぽく言ってみると、薫子はそうよ、とそっけなく返した。

「大事なことは、言葉にしないと伝わらないわ」

だから私は言葉にしたのよ。

そう言って佳亮の言葉を待っている。悔しいけれど、惚れた弱みだ。どう伝えれば満足するだろうかと考えを巡らせて、目の前に差し出されたオムライスをひと口食べると、それを見守っていた薫子の耳元に口を寄せて囁いた。


「…世界で一番美味しいオムライスですよ」



そっと顔を離すと、ぱちりと瞬きをして、そして佳亮の顔を見て花が綻ぶように微笑む薫子。

やれやれ、この先大変だなあと思ったけど、幸福感の方が断然勝(まさ)った。