「どうしてですか。最初卵もろくに割れなかった薫子さんが、卵をきれいに割って、それをきれいに混ぜて、挙句の果てに火を使ってお米と卵を炒めたんでしょう? すごい進歩ですよ。いくらでも褒めます」

佳亮が手放しで褒めているのに、薫子は顔を歪めて全然嬉しそうじゃない。これはいよいよ、本格的に佳亮の言葉が届かなくなっているのか…。佳亮は絶望した。

「薫子さん……」

力ない佳亮の呼びかけに、でも、と薫子が言葉を継いだ。泣きそうになりながら喋るから、しゃっくりが混ざる。それでも、薫子は言葉を繋いだ。

「でも…っ、一人で、作れるように、なった、ら、…食べ、て、くれる、…って、…よし、あきくんが…、言って、…くれた、…から、頑張れた、の……」

しゃくりあげながら、ようように言葉を紡ぐ。佳亮に食べさせたい一心で頑張ってくれたことを、嬉しく思うし、この思い出を宝物にしようと思う。

「ありがとうございます、薫子さん。僕も、薫子さんのお力になれたみたいで、嬉しいです。…これ、崩してまうのが勿体ないですけど、いただきますね」

本当に、スプーンを入れるのが惜しいくらい、きちんとオムライスだ。卵はちょっと破れて端が焦げ、中のケチャップライスも黒い米がところどころにはみ出ているけど。

それでも、大事なオムライスだったから、味わって食べよう。そう思ってスプーンを手にした時。

「まって……。……そのオムライス、まだ仕上げてないの……」

薫子がそう言って佳亮がオムライスをスプーンで掬うのを止めた。

…仕上げてない?

目の前のオムライスは焦げはあるものの、赤いケチャップライスを黄色い卵で包んであって、完璧にオムライスの形をしている。何が足りないというのだろう。

疑問に思っていたら、薫子がケチャップを手に持って、テーブルに乗り出してきた。…容器からケチャップが垂れる。

「……っ、………」

「………、………っ」

薫子が、オムライスの上にケチャップで不器用に…ハートマークを描き上げた。まさか、そんなものを描くとは思っていなくて、佳亮は驚いてしまう。

「か…っ、……かおるこさん……?」

佳亮がオムライスから視線を上げて薫子を見ると、泣きそうな目になって歯を食いしばった薫子が口を開いた。

「好きです……っ」