佐々木がスマホで何処かに電話をし始めた。佳亮は佐々木が通話で何かを確認した後、彼女が運転する社用車に乗って白くて高い塀が続く場所に来ていた。道の角を曲がってからずっとこの塀だ。あまりに変化がないから、佳亮は窓の外を見るのに飽きて前方を見ていた。

車は塀が途切れたところで止まった。車が横付けされた場所には高くそびえる豪奢で大きな門扉。門扉の中には広い庭が広がっていて、その中を門扉の真ん中から奥のほうに伸びる道一本があった。

佐々木が運転席を降りて門の横にある通用門のようなところでインタフォンで誰かと話している。すると門が開き、佐々木は運転席まで戻ってくると車で門の中に入った。

ゆっくりと進む塀の中は緑が豊富でまるで公園のようだった。手入れされた樹木。短く刈られた芝生。ところどころに咲き乱れる美しい花々。まるで西洋の豪邸の庭だ。

そしてその庭を抜けると真っ白で大きな建物が姿を現した。まるで昔の貴族の館のような装飾のされた館。佳亮は目の前に展開される光景に圧倒されすぎて、何も言えなくなっていた。ただただぽかんと目の前の光景を見ているだけだ。

車が大きな正面扉の前に着くと、扉が開いて中から品の良い老人が出てきた。背はピシッと伸ばされ、黒の三つ揃えを身に着け、手には白い手袋をしている。

佐々木が運転席から降りたので、佳亮も倣って降りる。佐々木が老人にお久しぶりですと挨拶しているのを、やはりぽかんと眺める。老人が佐々木と挨拶をした後、佳亮を見た。

「杉山さま、でございますね?」

何故佳亮の名前を知っているのだろう。はい、と頷くと、老人は好々爺然とした笑みを浮かべて、薫子さまがお世話になっております、と挨拶をした。

「杉山さまのことは、薫子さまから少しお伺いしております。私は大瀧家の執事をしております、白樺と申します。今日は良くお越しくださいました」

「い…、いえ……」

目の前に繰り広げられる展開についていけなくて、佳亮は呆然と返事をするしか出来ない。

「薫子さまのことは、ご幼少の頃からお傍で拝見しておりました。本日、杉山さまにお越しいただいて、感謝しております」

感謝? 何故初めて会う人間に感謝などされなければならないのだろう。

「さ、ご挨拶はこのくらいにして、薫子さまのお部屋にご案内いたします。佐々木さまもご一緒に」

にこりと笑って佐々木が白樺の後を追う。佳亮は佐々木の後を慌てて追った。