その日も食事を作りに薫子の部屋を訪れていた。何時も通り二人で買い物に行き、薫子が荷物を持って帰ってきた。そして何時も通り薫子は調理を佳亮に任せてゲームに臨戦態勢だ。

今日のメニューはジャガイモのガレットとミートソースだったので、ガレットは最後に焼くとして、先にミートソースを作っている。材料を全て刻んで鍋でコトコトと煮る。木べらで鍋底をかき回しながらふと薫子のほうを見ると、どうもゲーム画面が最初のスタート画面から変わっていない。何かスタート画面を見なければいけない理由でもあるのかと思ったら、そうではない。ちょっとぼんやりしているようだ。先刻までは一緒にスーパーから帰ってくる道すがら、元気にしゃべっていたのにどうしたんだろう? 今日は疲れているのかな。だとしたら食事をしたらすぐに帰ったほうが良いな。佳亮はそう決めて調理に専念した。

「今日はジャガイモのガレットとミートソースです。ミートソースはタッパーに入れて冷凍してくださいね。パスタやご飯にかけると簡単にミートソースパスタやドリアが出来ます」

「何時もながらありがとう~。パスタは茹でられないけど、ご飯ならレンチン出来るわ」

テーブルに並べたジャガイモのガレットを前に手を合わせる薫子は、何時もの薫子だ。先刻心配したのは勘違いだったのかな。そう思って食事を始めた。

「んん~、ほっぺたが落ちるとはこのことね! それにジャガイモのガレットって初めて食べたけどとっても美味しいわ! 私、生ハムと目玉焼きを乗せないでも、ガレットだけでビールいけちゃう」

「チーズが入ってますからね。それにジャガイモも千切りで炒めてあるから、ちょうどポテトスナックのようにカリカリでしょう。それと同じ感じなのかもしれませんね。ビールが進んでよかった」

やっぱり薫子は元気なのが一番いい。安心して佳亮も食事が出来た。

食事が終わり、皿洗いをして手を拭くと、鞄を手にした。

「えっ、もう帰るの?」

驚いたのは薫子で、その言葉に驚いたのは佳亮だった。

「コーヒー、まだだよ?」

そう言われればそうだった。しかし、先刻ちょっとぼんやりしていた薫子が気になる。あまり長居はしない方が良いのではないかと思った。

「薫子さん、お疲れでしょ。今日は帰りますね。また元気な時に、コーヒーご馳走してください」

「疲れてなんか、ないけど……」

戸惑うようにそんなことを言う。一人ご飯が長かったから、誰かと一緒に食べる食事はとても楽しいけれど、相手に無理させてまで付き合ってもらうのは良くない。やっぱり帰ります、と告げ、玄関を出る。

「おやすみなさい。戸締り、忘れないで」

扉の隙間から見えた、見送りに来た薫子が寂しそうに見えたのは、きっと気のせい。