「兎に角、これはいったんお返しします。こんなの受け取れない」

そう言うと、薫子が焦ったように言った。

「そんな…。困るわ、私、こういう風にしか、お礼が出来ないのよ……」

他に何もできないし…。

そう言って、また肩を落として視線を下げる。

高級車に乗っていたり、ブラックカードを持っていたり、ホテルのティーラウンジで黒服が挨拶に来たり、何処かのお金持ちかなとは思っていたけど、あの1Kの部屋と結びつかなかった。でも、これで分かった。薫子はれっきとしたお金持ちだ。それも、かなり世間知らずの。

佳亮は気持ちを落ち着けて薫子を諭した。

「…薫子さんに出来ること、あるじゃないですか」

佳亮の言葉に薫子が顔を上げる。

「私に…、出来ること?」

言われて、でも本当に思いつかないといった顔で佳亮を見た。ちょっと笑えてしまう。

「僕の料理、食べてくれるじゃないですか」

何時も恋人たちに嫌がられていた手料理。それを喜んで食べてくれたのは薫子が初めてだ。

「そんな……。でも、じゃあ、どうやって、ご飯のお礼をしたらいいのか、分からないわ……」

「良いんですよ、お礼なんて」

佳亮は微笑んで言った。最初は腕を買う、なんて言われたけれど、実際作り始めたら人の為の料理作りがこんなに楽しいんだって思い出した。それだけで十分すぎるお礼だ。

「困るわ……。そんなこと言われたら、私、本当に、どうしたらいいのか分からない……」

心底困ったように薫子が言うから、じゃあ、こうしましょう、と佳亮は提案した。

「料理が美味しかった時は、僕にコーヒーをご馳走してください。コンビニの缶コーヒーで構いません。僕はお酒をあまり飲まへんし、コーヒーは好きです。それに、薫子さんやってコンビニへ行くのは好きでしょう?」

佳亮が言うと、薫子は呆けたような顔をした、ぽつりと呟いた。

「そんなことで、良いのかしら……」

「良いんですよ。僕が、薫子さんに料理を作ってあげたいだけなので、本当ならお礼なんて要らないんです」

そう言ってもう一度佳亮が微笑むと、漸く薫子も少し困ったように微笑んでくれた……。