給料日。佳亮はいつも通りATMで給料の入金を確認して、目が飛び出るほど驚いた。給料の入金が記帳された通帳に一緒に記帳された一行。
―――『振込:3,000,000:オオタキカオルコ』
「か…っ、薫子さーーーんっ!」
佳亮は仕事が終わってそのまま薫子の部屋に直行した。チャイムを鳴らせば、まだ帰宅していないらしく応答がない。そういえば薫子は忙しいんだった。取り敢えず自宅に帰って、薫子の部屋に明かりが灯るのを待つ。
気分が落ち着かないので、お茶漬けだけを食べて薫子の帰宅を待っていた。深夜遅くになって、漸く低く轟くようなエンジン音とともに赤いフェラーリが走ってきて、そのまま道を挟んで向かいのマンションの駐車場に入っていく。薫子だ。佳亮はネクタイをしめたまま、家を飛び出した。
薫子が駐車場からエントランスに入ろうとする。道を挟んで薫子を呼んだ。
「薫子さん!」
こんな夜中に自分を呼ばれるとは思っていなかったんだろう。薫子が驚いたように振り返って、そして声の主が佳亮だとわかると、気安い笑みを浮かべた。
「佳亮くんじゃない、どうしたの、こんな遅くに」
佳亮は車の往来がないことを確認して道を横切って薫子の前に立った。
「かおるこさん、これ……」
佳亮は家から持ってきた通帳を見せる。丁度ページの切り替わった最初の行に印字された、振り込みの明細。
「あら、振り込めてたのね。良かったわ」
「ふ…っ、振り込めてたのね、じゃないです! なんですか、この金額は!」
「あら、足りなかった?」
きょとんと、薫子が瞬きをする。そうじゃない。そうじゃないだろう。
「一体、何のつもりでこんな大金振り込んだんですか!」
「え? だって、私この前聞いたでしょう? ご飯のお代を支払うから、口座教えてって」
確かに聞かれたとも! でも、こんな大金だなんて思わなかった。
「月にたった二回。それもごくありふれた普通のご飯を食べただけで、貴女はこんな大金を店に支払うんですか!?」
銀座の三ツ星レストランでも、こんなに取らないぞ。そう言うと、薫子はしゅんとした。
「ごめんなさい。相場が分からなかったの…」
相場が分からなくて…。それにしたって多すぎる。