こうして『ぶつかりおじさん』の事件は解決した。

 例の男は暴行の現行犯として逮捕され、パトカーに乗せられて新宿署へと送られた。そこで事情聴取と余罪の追及がされることになっている。

 亜栖紗と北条も逮捕時の説明と情報交換のために新宿署へと出向き、日が変わる間近にようやく分駐所へと戻ってきた。
 勤務時間もとっくに終わっている。終電にはまだ少し時間があるので亜栖紗が自分のデスクでお茶を飲んでいたら、柳川警部がにこにこしながらやってきた。

「おつかれさん。大手柄だね」

「でも、一人で対処するなってあれほど言ったのに」

 ぶつくさ言っているのは、隣のデスクで同じくお茶を飲んでいる北条である。
 しかし言葉とは裏腹に、彼の顔には安堵(あんど)の表情が浮かんでいた。

「だって、相手の方からこっちに向かってきたんですもん……」

「それにしても、お前、強いんだな。あれは見事な払い腰だった」

「み、見てたんですか! え、えと……あの……私一応、柔道で日本代表一歩手前までいったことがあって……」

 もじもじとする亜栖紗の耳に、ボソッと北条の言葉が掠める。

「……ありがとう。これでようやく、妹にも良い報告ができる」

 その言葉に亜栖紗の顔にも笑みが広がった。
 犯人が捕まったことで、少しでも外に出ることへの不安がなくなるといいな。そう願わずにはいられない。

 そこにガラガラとドアの開く音が響く。
 三人は同時に入り口に目を向けると、一人の若い男性が肩を弾ませながら入って来たところだった。

「あの、鉄道警察はこちらですか! あっちで僕の知り合いと知らないやつがけんかはじめちゃって……!」

 北条と亜栖紗はすぐに湯呑をデスクに置くと、立ち上がる。
 一つの事件が終わっても、次から次へと事件はやってくる。

 眠らない街を要するこの巨大ターミナル、新宿駅。
 今日も鉄道警察隊新宿分駐所は大わらわだ。