「しっかし、その風貌はないぞ」

「徹夜明けなんだよ。どうしても来いって言われてさあ」

涼の職業は画家だ。本名では活動してないが、絵画に興味があるなら、一度はその名を耳にしたことがあるぐらいの売れっ子だ。

今夜この場に彼を招待したのは、主催者である人物だろう。経済界のドンとも言われるじいさんで、こういうパーティーは彼にとって遊びのようなものらしい。

そんなじいさんのお気に入りが涼だ。

じいさんは、彼が駆け出しのころからその才能を見出し、サポートしている。食えない時代はなんだかんだと家に呼んで食事を振る舞い、食えるようになっても放っておけばまともな食事を取らない涼を、今夜のようにパーティーに呼ぶ。「美味しいもんを食いに来い」なんて誘い文句で。

彼は、涼がどんな格好で現れても、決して咎めることはしない。そんな特別扱いは、何度かこういう場に足を運ぶ人達の間では有名な話で、好奇な目を向ける人はいても、直接貶す人はいない。