人目のない辺りでやっと足を止めると、まずはボサボサ男に目を向けた。

「涼。さすがにそれはないぞ」

悲惨な風貌を指摘するも、彼は肩をすくめるだけ。

「時間がなかったんだ。来ただけでもよしとしてよ」

俺と親しげに話す様子に、神田さんが目を見開いている。

「ふ、副社長、そちらは……」

そろそろ説明するかと、彼女を見遣った。

「彼は、花菱涼。私の従兄弟です」

「え?」

そう。涼は父方の従兄弟。こんななりをしているが、ちゃんとすればかなり見栄えのよい男だ。

チラリと涼に目を向けると、鬱陶しそうに前髪をかき上げていた。それを目にした神田さんは、彼の容姿の良さにハッとした。

「なに、陽一さん。こんな失礼な秘書をつけてるの?」

今度は涼が、ゴミでも見るように神田さんに目を向けた。彼女はみるみる青ざめていく。

「俺の秘書じゃないけどな」

従兄弟相手に、つい口調が砕けてしまう。