俺が声をかけようとしたその前に、動き出したのは神田さんだった。

「ちょっと、どこの誰だか知りませんが、ここはあなたのような人が来ていい場所ではありません」

まるで汚い物を見るように睨みながら、そう言い切る神田さん。しまったと思って手で制すも、彼女は止まらない。

「ちょっと、汚いじゃない。離れてください」

いや。彼は神田さんを避けて、俺と話そうしただけだ。

会場の隅での出来事だったが、神田さんの剣幕に少しずつ視線を集めてしまっている。これはさすがにまずい。

「神田さん、ちょっと」

強引に、外に出るように促す。ついでに「涼も来い」と、ボサボサの男にも声をかけると、神田さんは困惑し出した。