イーサンからのクレームは、その日のうちに入った。俺と柳田さんと片桐さんは、社長室に呼ばれていた。

「片桐さん。イーサンの訛りの強い言葉を聞いて思うことがあるのは、人それぞれです。しかし、それを非難したり、馬鹿にしたりするのは、人としてどうでしょうか?
私は、そんな人間はとてもじゃないが信用できない」

不貞腐れる片桐さんの横で、今回もまた柳田さんが指導不足を謝罪している。

「今回のことで、イーサンは大変お怒りです。会社の信用問題に関わることです。
片桐さん。今日までお疲れ様でした。お帰りください」


銀行頭取の娘、片桐彩芽。
親の権力を傘に、周りからチヤホヤされて傲慢な性格だということは、片桐親子を知っている者の間では有名なこと。

父親が退任したら、彼女はどうなるのだろうか。周りの人が離れていって初めて、自分の無力さを知るのだろうか?
そうなってしまう前に……なんて、情けをかけることはしないけど。

それにしても……


「山形さん。よくあの訛りの強い英語がわかりましたね」

「私の祖母が、あの地方の出身の祖父に嫁いでいるので。私にとっては聞き慣れたものです」

なるほど。秘書になってもらってまだ数日。
彼女の祖父がアメリカの方だとは聞いていたけれど、そこまでは知らなかった。