ー4日目ー

この日やってきたのは取引先の社長で、アメリカ人のイーサンだった。
彼はもちろん日本語も堪能だが、相手の出方を探るという理由を隠れ蓑に、英語しか話せないと惚けて楽しむという悪癖がある。

彼とは父親の代から引き継いだ付き合いで、知り合って随分長くなる。打ち解けてしばらくして、その悪癖を本人から聞いた。


副社長室で話をしていると、片桐さんがお茶を出してくれた。英語でやり取りする俺を見て、一瞬尊敬するような眼差しを向けてきた。確か、彼女は英語が堪能だったはず。

しかし、イーサンが話し出した途端、彼女はあからさまに顔を顰めた。
それをイーサンが見逃すはずもなく、片桐さんに声をかけていた。


「イーサンは、日本語が話せないんですか?」

彼女は俺が頷くと、イーサンと向き合って当たり障りのない会話をして部屋を後にした。それを見届けると、イーサンはニヤリとしてみせた。

「型通りだね」

「イーサン、彼女は……」

会社の信用を失うわけにもいかず、片桐さんがどういう経緯でうちにいるのかを説明した。

「じゃあ、君の本当の秘書を紹介してくれるかい?」

「もちろん」

2人になると、彼は流暢な日本語を話す。

内線で、山形さんを呼んだ。