「花菱。お前、面白いの放し飼いにしてるのな」

可愛らしい顔には似合わないこの言い様。なんとなく察しはついていたけれど、「何が?」と話を促した。

「これ、見ろよ」

下村から手渡されたメモ用紙を見て、思わず眉がピクリとする。

「さっきの間にか?」

「そう。随分面白いことしてくれるな」

見せられた用紙にあったのは、小野さんのものと思われる連絡先と、口付けのあと……

「すまん」

情けなくなってくる。
相手が下村だから、こうして笑い飛ばしてくれて済んでいるが、そうでなかったらと思うとゾッとする。
下村に促されるまま、事情を説明した。


「ふうん。お前も大変なんだな。で、最初に俺を案内してくれた山形ちゃんが、お前の秘書なんだね?」

含みのある笑みを、正面から見据える。

「そう」

「あの子なら、合格」

「ありがとう」

小野さんの失態に苦々しい思いだったけれど、最後の一言で気持ちが浮上した。