「山形さん、急な異動になってしまい、すみません」

「いえ。一社員として、会社の指示には従います。が……何分、秘書の経験がないもので、やっていけるか心配なのですが……」

「大丈夫です。ベテランの秘書が指導に付きますし、わからないことがあれば、私にも気軽に聞いていただいてかまいませんから」

努めて穏やかに声をかけると、彼女は安心したようで、少しだけ肩の力を抜いた。

「ありがとうございます」

「異動して早々、不安もある中申し訳ないのですが、あらかじめ伝えておくことがあります」

追加でそう切り出すと、せっかく力が抜けていた彼女は、もともと伸びていた背筋をさらにピッと伸ばした。

真面目な彼女に対して、すごく申し訳なくなってくる。それは、この後話すことが、極めて不本意なものだからだ。