「陽一。そろそろ日本にもどってこい」

アメリカ支社にいる自分の元に、本社の社長である父からの連絡があったのは、半年ほど前のこと。



大学を卒業して、そのまま当たり前のように祖父の立ち上げた花菱不動産に入社した。
はじめは小さな会社だったけれど、祖父や後を継いだ父の手腕のおかげでどんどん業績を伸ばし、アメリカ支社ができたのが、今から2年ほど前。

本社に一般社員と同様に入社して修行を積んでいた俺が、その立ち上げメンバーに入っていたのは、そこで結果を出して、帰国した際に要職に就かせるためだと理解した。


この2年間、脇目も振らずに一心不乱に働いてきた。
その結果、仲間の頑張りもあって、アメリカ支社は当初の予想よりも業績を上げられた。

仕事も面白くなってきたところだし、あと一年はこっちでやらせてもらえると思っていた。

案外早かったな……
あと一年の猶予で、やりたいことはあった。けれど、それを任せるのに十分力をつけた部下もいる。
まあ、諸々考えれば、自分にとって都合の良いこともあるからかまわないか。

名残惜しさを感じつつ、渡米した時とはまた違った夢や希望を抱いて、生まれ育った日本に帰国した。


そこまではよかったのだが……