「触るな」

カラスを組み敷いたハヤブサの胸に、血しぶきが舞った。

飯塚さんは手のひらに隠れるほどのエアガンを、俺たちに見せる。

その銃口を向けたまま、ゆっくりとハヤブサに近づいた。

動かなくなったR38を拾い上げる。

「こいつは大事な仲間なんだ。お前たちに渡すわけにはいかない」

「今すぐ投降してください。俺たちは全力で、あなたを支援します」

「はは。お前はいつまでそんな寝言を言っている」

飯塚さんは傷ついたカラスを腕に、俺たちを見下ろした。

「相変わらず甘いね。俺ならここで、俺を捕まえようとしないお前らを処分する」

この人の持つ銃口の先が、ハヤブサに向けられていることに気づいた。

「悪いが長居は出来なくてね、また会おう」

鍛えあげられた肉体が、清掃作業員の制服の下からでも分かる。

俺と竹内でつかみかかっても、勝てないと分かっている相手だ。

ちらりと竹内に目をやる。

飯塚さんからの距離は、俺よりも遠い。

背中にも目がついているような人だ。

動けば何が起こるか分からない。

飯塚さんはカラスを上着の中にしまい込んだ。

片手を振り上げた瞬間、一迅の風がエアカッターとなって駆け抜ける。

走り出したその人を追いかける複数の足音だけが、微かに耳に聞こえる。

「かわいそうに」

一切の気配を消し去った隊長が、そこに立っていた。

息も絶え絶えなハヤブサをそっと抱き上げる。

小さく甘えたような声を上げたその頭を、ゴツゴツとした太い指がそっと撫でた。

何も言わず、そのまま背を向け歩き始めた隊長に、何かを訴えようとしても言葉が出てこない。