「事前に提出、承認されていた改修内容と、全く違うらしい。なぜそれに誰も気がつかなかったのか、不思議なくらいだ」

飯塚さんはこの仕事にかかりきりだった。

隊長は何度も視察に訪れ、設計の確認も大勢の作業員を引き連れての工区日程管理も完璧だった。

「さぁ行こう。本部はいまパンク寸前だ。俺たちが踏ん張るか、あの人の暴走を許すかの瀬戸際だ」

竹内は立ち上がると、かつて俺の端末だったものを差し出した。

「アップデート済みだ。ちゃんと持っておけ。俺たちには、俺たちに任された任務がある」

「いらない」

なんて平和な奴だ。

この端末を持っていると、俺まで隊長と部隊に操られている気分になる。

「自分の気持ちまでは、支配されない」

竹内は笑った。

背中で何やらごちゃごちゃ言っている。

そんなことは俺だって、十分分かってるさ。

だけど世界と現実の乖離を、俺はまだ埋められない。

飯塚さんは相変わらず行方不明のままだ。

都庁変身の日時を予告したことに、どんな意味が隠されているのだろう。

混乱が混乱を呼んでいる。

「やっぱり、R38を追った方がいいと思う」

「根拠は?」

竹内がそんなふうに即答で突っかかってくる時は、怒っている証拠だ。

「ない」

盛大にため息を吐かれる。

俺はただ、納得と理解が追いつかないだけなんだ。

「飯塚さんはなぜ日時を予告した? 自分はこの日この時間に都庁へ行きますよって、捕まえてくださいって、自分から言っているようなもんだ。飯塚さんの狙い通り、今や隊長を含む部隊の大半が、それを阻止すべく都庁にかき集められている。俺が飯塚さんなら外が歩きやすくなったって、行動しやすくなったって、笑ってるね」

「俺たちの隊長から与えられた任務は、飯塚さんの確保だ。そして俺たちはパートナーだ。作戦は?」

俺は胸ポケットから、R38の黒い羽根を取り出した。

「これでカラスを呼び寄せる。話はそれからだ」

AIさえ予測不可能なノープラン作戦。

竹内は何も言わなかった。