あの隊長が、これに気づかなかったのか? 

きっとそんなはずはない。

わざと見逃したか、問題ないと判断したのかもしれない。

それとも、データだけとって放置された?

7×15㎝程度の装置をセットする。

レーザー照射により、層になった傷の解析を始めた。

俺はPCの前に座って、その結果を待つ。

竹内はいつものように、何かのセッティングに夢中になっている。

イヤホンから音声が聞こえてきた。

「……だけど、それじゃあ……ガガッ……ギ、ギー……」

どうしても雑音が入る。

キュルキュルというノイズの排除レベルを上げても、かなり聞き取りにくい。

俺と竹内のくだらない雑談も残されている。

「えぇー! どうして? なんだよぉ……それ……」

「バカか。重人、おま……カツ丼の……」

サンプリングとして記憶されている、いづみと飯塚さんの音声だけに絞って、抽出させる。

「だからそ……れは……アールグレイよりもアッサムの方が……」

「かつてのミルスターとDSCSが……商用衛星の80%の……、NICTの地上低軌道間で衛星間通信量40Gbps級の……」

不意に、鮮明な音声が入ってきた。

「……俺は、今進めている改修作業には反対なんだ」

「でもそれは仕事なんでしょ? 命令と同じよ」

「もちろんそうだ。俺が選ばれたことは名誉だと思ってるし、信頼の証でもある」

「じゃあいいじゃない」

「隊長とも話した。だけど隊長は……」

耳を切り裂くようなノイズに、思わずヘッドホンを投げ出す。

胸の鼓動が早い。

呼吸が乱れる。

俺はもう一度、それを装着した。

「……もし、これを聞いているとしたら……、お願い、私には……」

いづみの声だ。

それは、いづみが俺たちに残したメッセージだった。

「あの人を助けて。隊長、竹内くん、磯部くんも、お願い。私たちはこれから久谷支部のサーバ-を沈める。軍事衛星を機能停止に追い込み、国営放送をジャックする。水道局のシステムを掌握する。電力もよ。最終目標は天命の破壊。そのウイルスデータは残せたら残す。探して。それからあの人は……」

「出来たぞ、重人。こっち来い」

竹内に呼ばれて、俺は立ち上がる。

「隊長から送られてきた、特別装備だ」

それは天命からも独立したシステムだった。

天命が機能停止に追い込まれ、特殊状況下におかれた場合にのみ起動する。

「飯塚さんの最終目的はこれだ。派手に登場させて、部隊ごと解散に追い込む」

「俺たちの存在を、公にするつもりか」

「改修メンテナンスのプログラムを組んだのは飯塚さんだ。操作方法がどれだけ変更されているか、想像すら出来ない」

「こんな話、誰が信じるかよ」

「だけど現実だ」

竹内は、じっと俺を見つめた。

「俺たちはこれを、公にするわけにはいかないんだ」

『○月○日14時、東京都庁から巨大ロボットを出現させる』

 IF03からの最終予告が、ネットに公開された。