天命は綱渡りの動作を続けていて、コンビニのバックヤードシステムも、そのおかげでかろうじて維持されている。

天命の運用に関する一番の問題は、メンテナンスによる一時中断が出来ないことだ。

全てを遮断した瞬間、この世界は終わってしまうだろう。

民間に運用を移行させた流通システムで、竹内は新たに運び込まれた何かのスタートアップに夢中になっていた。

静かになってしまった地下基地を見渡す。

その後、隊長からの連絡は何もない。

つい最近まで飯塚さんといづみ、R38もいて賑やかだったのが、ウソみたいだ。

いづみの研究対象だった観葉植物の鉢も、全てなくなってしまった。

動物だけでなく植物とも意志の疎通をというのが、彼女の研究だった。

それがどんなものかなんて、俺は知らない。

固い植物の葉についた傷で録音するとかいってたな。

もっと分かりやすく言えば、スパイアイテムの開発だ。

いづみの机だったはずの引き出しに、ペンとノートが転がっている。

彼女が研究の合間に描いていたスケッチだ。

様々な動物や植物の鉛筆画が並ぶ。

他にはのど飴とハンドクリーム、R38が彼女に捧げた貢ぎ物も詰め込まれていた。

一本の大きな黒い羽根を手に取る。

これを振ると、魔法のステッキみたいにR38が飛んできたっけ。

なんとなく、その羽根を胸のポケットに差し込もうとして、取り落としてしまった。

はらりと机の下に舞い落ちたそれを、拾おうとしゃがみこむ。

ふと引き出しの底面が、不自然にザラザラとしているのに気づいた。

どうしてこんなところが……。

いや、違う!

俺は慎重にそれを引き抜く。

中身を一つ一つ丁寧に取り出し、底を観察する。

滑らかに見えるそのプラスチック板にも、細かな傷はついているはずだ。

記憶を呼び覚ます。

この引き出しは確か、いづみの開発中だった特殊プラスチックの録音装置だ。

たしか表面を解析する機器は、まだここに残されていたはず。

俺は余計な雑音を増やさぬよう、忍び足で機器を探した。