俺の本能は殺気立つ。

竹内もだ。

彼は端末をポケットに差し込むと、黒縁眼鏡型高性能センサーのブリッジを持ち上げる。

それは例外なくいつだって、戦闘開始の合図だった。

ペットショップの自動ドアが開く。

出てきたのはいづみだった。

手に箒を持っている。

彼女は静かに辺りを警戒していた。

俺たちはカーブミラーの死角に入っている。

手にしている竹箒。

一見そう見えるものは、操作スティックに間違いない。

高感度温度センサーを備え広範囲を瞬時に探知し、対象を発見すれば振動でそれを伝える。

彼女は店の前を掃除するフリをしながら、ここにある全ての機能を操作していた。

「……来たのね」

頭上カーブミラーの首が動く。

瞬時に飛び退いたその位置を、レーザー光線は貫いた。

彼女は竹箒をくるりと一回転させると、それをさっと大きく横に振る。

消火栓からの水が、間欠泉のように噴き出した。

「くそっ」

体が濡れるのはマズい。

箒の柄から何かが飛び出し、すかさず頭上の電線を切った。

切れた線の先は、蛇のように鎌首をもたげる。

それは竹箒の動きと連動していた。

「それ以上、近づかないで」

「話をしに来たんだ。飯塚さんはどこだ」

彼女の視線は、ゆっくりと静かに落ちてゆく。

元々表情の変化に乏しく、感情の読み取りにくい人だとは思っていたけど、それは更に強化されているような気がする。

「ちょうどよかったわね。直接話せば?」

カーブミラーの鏡面が切り替わった。

「どうした、いづみ!」

その丸い画像の中に、飯塚さんはいた。

「あなたを迎えに来たそうよ」

ミラーの首が動く。

飯塚さんはチッと舌をならした。