「体力が落ちてるな」

「最近走り込まされてないから」

用意しておいたビラを握りしめる。

ピンクの毛むくじゃらの手の中で、それはぐしゃりと音を立てた。

夜の繁華街は人であふれていた。

東京の街は着ぐるみ人形の徘徊を許している。

監視カメラの目も、着ぐるみの中の人物までは特定出来ない。

俺たちが選んだゲーセンは、R38の立ち寄った漫画喫茶の目の前だった。

ここでビラ配りのフリをしながら、一つしかない正面出入り口を見張る。

交代しながら数時間を費やしたが、なんの収穫も得られなかった。

俺たちは着ぐるみのまま路上に座り込む。

「夜でもあっちーな、やっぱ」

「竹内、脱ぐなよ」

「分かってるよ」

俺はピンクウサギの毛むくじゃらの足で、路上に捨てられたたばこの吸い殻を踏みつけた。

「あーぁ。どうせならもっと楽な仕事がよかったよなぁ~」

竹内がつぶやく。

「楽とは?」

「外に出なくてもいい内容」

「それ、いっつも言ってるよな」

汚いリスのくせに、俺を見て笑う。

なんとなくつられて、俺も笑った。

そういう俺も、薄汚いピンクのウサギだ。

飯塚さんは出てこない。

本当にここにいるのかどうかも分からない。

俺たちはかわいらしいウサギとリスで、誰にも見向きもされていない。

夜なのに明るい街で、忙しく座っている。

「ここで何をしている」

そんな永遠にも思えた時間は、一瞬にして過ぎ去った。

現れた隊長は人気有名ゲームキャラに扮している。

怒りに満ちあふれていた。