「R38」

一羽のカラスがまたそこにとまっていた。

慎重に窓を開ける。

今度は背に何も背負っていない。

そっと呼びかけると、彼はきゅっと首をかしげた。

どうやって引き留めよう。

カラスの気を引くコミュニケーション術なんて、今までやったこともなければ、気にとめたこともない。

コンビニ地下室での、楽しかった日々を思い出す。

R38はいつもいづみに甘え、俺をからかって頭の上に乗り、竹内の肩にとまって、飯塚さんに撫でてもらうのが好きだった。

もうそんな日々は戻ってこないのか……。

「そうだ、なんか食べる?」

彼の好物はササミだ。

しかも国産鶏じゃないと受け付けないというグルメでもある。

頭の中でざっと我が家の冷蔵庫の中身を思い出そうとしても、ササミの存在など普段の俺の意識の範疇にはない。

なんてことだ。

立ち上がって、驚かせはしないだろうか。

冷蔵庫を探っている間に、飛び去ってはしまわないだろうか。

じっと目を合わせたまま動けない俺を見て、カラスはぴょんとプリンターに飛び乗った。

R38の眼だけが周囲をうかがっている。

俺はゆっくりと引き出しにあったストラップを取り出すと、キーボードの横に置いた。

彼はじっとそれを見つめる。

カチカチと爪音を鳴らして、テーブルに移った。

頭をカクカクと左右にかしげながらも、それを用心深く観察している。

ここで何か話しかけた方がいいのか、やめた方がいいのか……、もっとカラスの気持ちを考えろ、俺!