疲れた体を引きずって、ようやく家に戻った。

明け方4時過ぎ、家族の顔も見ていない。

寝静まった玄関にそっと足音を忍ばせ階段を上ると、見慣れた自室にほっとため息をついた。

自分一人がようやく寝転がれるだけのスペースに入り込み、体を休める。

目を閉じる気にはなれなかった。

何も考えられない、何も思いつかない。

体の疲れが全ての思考能力を奪っていったかのようだ。

ただ無心に時を過ごす。

朝日が登るとともに、室温も上がり始める。

遠くで鳥たちのさえずりが聞こえる。

ふと視界に入ったルーターが、駆動していないことに気づいた。

そうだ。

母さんに電源を落とされてから、結局ムカついたまま何にも触っていなかった。

このまま放置していても、どうしようもない。

とりあえず立ち上げないと。

いつかはどうせ、やらなくてはいけないことだ。

電源を入れようとして、ふとその手を止める。

あれ? 

天命のシステムがダウンしたんだったら、俺のパソコンはどうなった?

スタートボタンを押す。

冷たく冷えていた基板に、電気の血が流れる。

息を吹き返したそれは、正常に作動し始めた。

すぐに携帯端末を初期化し、俺のパソコンに残されたデータから天命を再ダウンロードする。

本部のウイルス駆除はもう始まっている。

動く。

天命がちゃんと動いている。

感染を免れたのは、俺だけじゃないはずだ。

飯塚さんは? ダウンと再起動を見越して、潜伏ウイルスを仕込んでいることだってありえる。

だとしたらこれは、一時的な回復でしかないのか? 

これから先、こういった停止と復旧を繰り返し、徐々に全体を破壊していくつもりなのだろうか……。

俺はふと思い返し、R38の情報を探した。

しかしそれは、飯塚さんの放ったウイルスによって消されたのか、やはり極秘事項として本部の検索項目から外されたのか、確認はできなかった。

わらにもすがる思いで、いづみへのアクセスを試みる。

当たり前のようにつながらないことに、俺は指をキーボードから下ろした。

やっぱり無理か。

ほんの短い期間を共に過ごしただけの俺でも、置いて行かれた疎外感を感じている。

ずっと一緒にいた竹内の気持ちを、俺はようやく理解できたような気がした。

どうしようもない無力感に襲われる。

窓の外を影が横切った。