「証拠は」

「ない」

ふいに、コンビニへの来客を知らせる音楽がなった。

反射的に駆け上がる。

「お待たせしましたぁ!」

竹内がいつも制服を着ていて助かった。

悪態をつく客を相手にレジを打つ。

その間に俺は素早く制服に着替えた。

二人で店に立つ。

天命がハックされ、商品の配送も止まっていた。

竹内に配送システム不具合の張り紙を出し、店の混乱を軽減させるかと提案したら、同じ看板を掲げる同系列他店舗では影響がないはずだから、うちだけ停止しているのはおかしいと言われた。

俺たちの秘密基地は、他系列店舗という扱いになっている。

その数は圧倒的に少なく、出店地も普通ではありえない僻地に建てられていた。

客足を増やさないためだ。

だが店舗として店を構え営業している以上、客を装った隊員だけではなく、本物の客もやってくる。

バックヤードのオートメーションオペレーターは、数時間後にはなんとか復旧し動き出したものの、実働店員2人だけで店を回すには無理があった。

「俺はコンビニ業務が忙しくなったことに対して、怒ってるんじゃないんだ!」

レジ打ちと商品配列に忙殺されながら、竹内は叫んだ。

「分かってるよ!」

とはいうものの、こんな精神的にも肉体的にも過酷な労働を、2人だけでは乗り切れない。

しかもここは基地という特性上、24時間営業なのだ。

「コンビニの管理プログラムまで破壊したのは、部隊の人員を割かせ疲弊させる目的もあったのかもな」

店長も兼務していた飯塚さんだ。

その作戦の徹底ぷりはハンパない。

「……もしそうなら、ぜってーぶっ殺す!」

竹内の叫びむなしく、俺たちはほぼ無休状態でコンビニ営業を続けざるを得なかった。

本部からの専用回線は途絶えても、定時で配送トラックは来てくれる。

それがどれだけ心強く励みになるのかを思い知った。

配達員を装った隊員からの指示を受けとる。

天命は乗っ取られ、全てが混乱していた。

安全が確認されているトラックの荷台で交わす会話のみが、確かな方法だった。

俺たちはその日一日、コンビニ業務に追われた。