「どうかしたのか?」

「いや、……何でもない。多分気のせいだ」

再びキーボードに指がのった。

動き出そうとした瞬間、彼はガタリと立ち上がる。

「マズい! フリーズする!」

メインディスプレイは暴走を始める。

やがてそれは、静かにシャットダウンしていく。

竹内は両拳をドンと叩きつけた。

「くそっ、システムダウンだ!」

真っ青になった竹内の額から、ねっとりとした汗が流れ落ちた。

「天命のセキュリティが破られるなんてことは、絶対にあり得ないんだよ! トラブル? ハッキング? あの気の狂った精鋭部隊がか!」

「はは、お前のアカウントが停止させられただけじゃないのか? 絶対不可侵、唯我独尊、超ドSなオレ様仕様だから『天命』って名前なんじゃないの?」

「その天命が緊急強制終了したんだ! 機能停止だ!」

竹内は親指をぐっとかみしめる。

その指はイライラとドズ黒く変色してゆく。

「やっぱり気のせいなんてありえなかった。そんなものはこの世に存在しないんだ。あの違和感を見過ごしてはダメなんだ」

ブツブツと続ける竹内の端末が鳴った。

民間システムを経由しての隊長からの連絡に、俺たちの心臓は止まる。

それがどれだけの非常事態だということを示しているか。

どこで傍受されているか分からないそれに、竹内は細心の注意を払う。

「エリアマネージャー」

俺たちはコンビニ店員だ。

「調子はどうだ」

「発注システムがダウンしたんですか?」

「メンテナンスは入った。すぐに復旧する」

それは『復旧する』という事実ではなく、『させる』という隊長の意地だ。

「お前らは通常勤務を続けろ」

 通信は切れた。

竹内は今までにないほど動揺している。