「君にはまだまだ、沢山の夢や希望、可能性があふれているんだ」

「何でもいいのよ、出来る事からの一歩を、まずは始めましょ」

「重人、お願い!」

がっくりと力が抜ける。

物語の覆面工作員はみんなヒーローだなんて、絶対にウソだ。

戦意を完全に失った俺は、結局そのまま説教なのか説得なのかよく分からない話を延々と聞かされる。

じっと正座して話を聞くことに慣れていないので、足が痛い。

2、3時間はしゃべり続けて、母はようやく満足したらしい。

我が家に侵入することを許してしまった恐るべきエージェントたちは、きっちりと仕事をこなし、それを見届けてから姿を消した。

仕方なく母に付き合って家事を手伝い、よく分からない連続ドラマの続きを一緒に見る。

姉と母がごちゃごちゃ言っているのを、後ろで黙って父とみていた。

グラスに入ったビールが差し出される。

そう言えば酒を飲むのも、久しぶりのような気がするな。

父自身は、缶から直接飲んでるくせに。

片付けと風呂まで済ませ、ようやく二階に戻れた時には、22時を回っていた。

開け放したままの窓から侵入した夜の空気は、すっかり部屋を侵食している。

パソコンを強制終了から立ち上げるには時間がかかる。

泣きたくなるような気分を押し殺し、電源を入れようとして、やめた。

「やってられるかよ、今からトラブルシューティングなんて……」

これで俺のPCと端末はしばらく使えない。

こんなところに伏兵がいただなんて、だれが想像する? 

静まりかえった機器たちを残し、俺は久しぶりに隣の部屋のベッドに入って、ぐっすりと眠った。