玄関には、孫の手を持った母が立っていた。

50代と思われる女性がその母に寄り添い、そのすぐ側にいる30代な感じの男とも目が合う。

「電源をわざと落としたのか!」

「私の指示で、お母さまがあなたのお部屋のブレーカーを落としました」

「はぁ? ふざけんなよ!」

女に代わって男がにじり寄る。

「あなたのお母さまが、本当にこんなことをやりたくて、やっていると思いますか?」

間髪入れず、母はしくしくと泣き出した。

「ご、ごめんね重人。すぐに元に戻すからね」

母から孫の手を受け取った女は、ブレーカーを元に戻した。

得意げかつ毅然とした態度で俺を振り返る。

「余計なことするなって! 俺の心配は無用だ!」

「確かに。あまりいい手段だと私も思ってはいませんが、お母さまと相談した上で決めました」

その身勝手な軽率さに、俺は盛大なため息をつく。

このパソコンが今の俺にとって、唯一の武器であり手段なのに!

「だって、重人はずっと家に引きこもってパソコンばかり……」

「仕事だって言ってるだろ!」

「なんの仕事よ!」

「……自宅、警備……」

「あなたに守ってもらわなくても、ちゃんとお巡りさんがいます!」

俺もその警視庁の一員なんですけど! とは、口が裂けても言えない。

俺は今、こんなところで足を引っ張られている場合じゃないのに!

「重人くん、君には価値がある。人生の物差しは一つではないのよ」

男の手が肩にのり、女はさらにたたみかける。

「家に引きこもってばかりいないで、生きる本当の意味を見つけて。ね?」

この二人は、精神保健福祉センターから派遣された家庭問題専門のカウンセラーらしい。