カチッというマウスの立てた音に、R38は首を傾ける。

まさかパソコン画面に映るコードまで理解出来るとは思えないが、背中のボックスにはカメラが搭載されていた。

もしそれでいづみか飯塚さんがこちらを見ているとしたら……。

俺は操作していた画面を閉じる。

「いい子だね、おいで」

そっと手を伸ばす。

カラスはひさしから、ぴょんと窓際の3Dプリンターに跳び移った。

「なぁ、お前に聞きたいことがあるんだ。俺のことは分かるよな。……ね、どっから来た? 今は、どこにいるの?」

R38と思われるカラスは、もう一度首を傾けた。

手を伸ばしそっと近づける。

このまま捕まえられるとは思はないが、どうしたらその背に負ったボックスをこちらに渡してもらえるだろうか。

そこには行動記録や録音録画データ、発信器等々、貴重な情報が詰まっている。

彼は近づいてくる俺の手に警戒している。

それをゆっくりと引っ込めると、黒い眼は今度はそれを追いかけた。

「怖くないよ。大丈夫だから、こっちへおいで」

かぎ爪はプラスチックの機器に当たって、カチカチと音を立てる。

R38と目が合う。

「いい子だ……」

カラスの首が傾いた。

バチン! 

その瞬間、部屋の電源は落ちる。

「うわぁっ!」

真っ黒になった画面に飛びついた。

カラスは驚き逃げ去る。

だが今はそれどころじゃない。

慌てて窓から周囲を確認してみても、変わった様子は見られない。

俺は配電盤まで駆け下りた。