散々話合いをするも結局結論はでず、明け方を十分に過ぎてからようやく帰宅した。

とっくに俺への関心を失った父は仕事に出かけ、都庁勤めのよく出来た姉は、ピシッと決めたスーツに身を包んでいる。

「重人はまた昼夜逆転生活してんの? コンビニのバイトはいつまで続ける気なのよ」

ヘアスプレーの匂いがプンプンする。

ガーガーうるさいドライヤー越しに文句を言われても、無視してていいのは助かる。

「朝ご飯、食べる?」

遠慮がちな母の声に、俺はなんとなくちゃぶ台の前に座った。

「ふん。お金かけて大学院まで行っても、ニートしてりゃあ意味ないわよね!」

行ってきますという捨て台詞を残して、姉は出て行った。

成績優秀でスポーツ万能、姉と同様に自慢の息子だったはずの俺は、この家ではもはや腫れ物でしかない。

「午後からちょっとお客さんが来るから、あんたは二階にいなさいね」

そう言って母も座った。

朝のワイドショーは、平和な世界の象徴のようで、都庁改修工事にまつわる裏金と献金問題について語っている。

「母さんはこれからパートに行くから、食べ終わったら食洗機に入れておいてね」

姉の初任給で買った食洗機のスタートボタンを押すこと。

それだけがこの家で俺に与えられた、唯一の仕事だった。

家族みんなで食事をというのは、俺を二階から下ろすための母の言い訳でしかない。

いつも皆が食べ終わった後に飯を食い、その後始末をしている。

本当の職業は、家族にすら秘密にされていた。

仕方無いとは思うけど、さみしくはないかと聞かれれば、少しさみしい。

卵焼きにわかめと豆腐の味噌汁という、我が家の朝の定番を流し込んだ。