IF03。

このアカウントが飯塚さんであると、隊長は絶対に気づいている。

俺と竹内はもう何度もこのアカウントに接触を試みては、失敗していた。

どうすればあの人を救えるのだろう。

「もしさん……か」

黒いレースの人形の目が、ぐるりと動いたような気がした。

入隊試験のパスワードを解いた瞬間、部隊から直接送られて来たものだ。

この人形は、いつも飯塚さん側から発信した電波をキャッチしていて、俺からかけてみたことはない。

もちろんそのやり方は知っているけれども……。

再起動したばかりのパソコンを操作する。

回線は、ふいにつながった。

「飯塚さん!」

「やぁ重人、元気にしてたか?」

何度も何度も打診しては切られていたアクセスが、ようやくつながった。

飯塚さんの生の声が、久しぶりに鼓膜をくすぐる。

俺は人形に向かって話しかけた。

「なにやってるんですか、帰ってきてくださいよ!」

「はは、俺に直接連絡しようなんて、相変わらずお前らしいな」

その声は、何一つ変わっていないのに……。

「みんな待っています。心配しています。飯塚さんのいない久谷支部だなんて、コンビニとしても役に立ちません」

「そうやって言ってくれるのは、重人、お前くらいだよ」

音声が乱れる。

通信は傍受されている。

そんな危険は、お互いに百も承知だ。

「待ってください!」

このままでは通話は途切れてしまう。

言いたいことも聞きたいことも、山ほどあった。

「飯塚さん。さっき支部PCの……」

「常識を疑え。あらゆる可能性を想定しろ。世界は想像を以上に不思議なことであふれている」

息が詰まる。

今はそんな話で、貴重な時間を無駄にしたくはない。