いつの間にか世界は、夕方と呼ばれる時間帯になっていた。

暮れかけた太陽に、朱くそまった空を見上げる。

帰る道すがら全ての赤信号に引っかかったことが、余計に俺をイライラさせていた。

「あら重人、今日はもう帰ってきたの? 早かったわねー」

「もしかしてバイト首になったぁ~?」

帰宅した俺にちょっかいを出してくる母と姉の言葉を全て無視して、二階に上がる。

スペックは段違いに劣るが、支部を閉鎖されてもなお個人アカウントとして天命にアクセスできる家のパソコンは、もはや唯一の武器だ。

飯塚さんがこのシステムのどこかに侵入し、利用していることは間違いない。

あの人を探すなら、やはり本部もとっているこの方法しかありえない。

そう思って起ち上げたのに、数日ぶりに起動したそれは、更新画面に移りぐるぐると渦をまいている。

俺はあきらめてその場に寝転がった。

スチールラックの上に、黒い人形は姿勢良く正しく座っている。

その青い目を見上げた。

この人形は、飯塚さんとの通信機器だった。

コンビニの地下基地を水没させてから、すでに14日が経過している。

隊長の手によりフェイク動画として片付けられた事件を、語る人間はもう世界にはいない。

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

こんな本当のような嘘の情報で、簡単に飯塚さんの存在は消されてしまうのか? 

隊長の執拗な追撃から逃れるため、飯塚さんは完全に姿を消した。

街にあふれる監視カメラ、軍事衛星、あらゆる支払いにおける電子決済の記録、AIによる自動監視システムに加え、優秀な頭脳と経験を持つ本部所属の隊員たちが総力をあげて探そうとしても、その痕跡すら見つけられない。