ディスプレイに映し出されたのは、いわゆる匿名交流サイトの書き込みだった。

「本部が追っているのは、あくまで天命に乗り込んできた足跡だ。民間のログまでは追っていない。追っている余裕がない」

「これを追いかけていけば、リアルな居場所が分かるかもしれないってことか」

「そうだ。IPアドレスから実際の居所が分かる。天命の性能をつかって、俺たちは本部の逆サイドからログを追うんだ」

竹内と目が合う。

「手伝ってくれないか」

それは狩りをするような気分だった。

狩猟採集生活。

何もないデジタルの荒野を彷徨い、その痕跡を地道に追いかける。

見つけたと思ったら見当違いだったり、気がつけば全く違う所にたどり着いたりしていた。

日は沈み、また登ることを繰り返す。

本部は繰り返される天命への不正アクセス防衛に手一杯だった。

普段からそんなことはやり慣れてはいたが、今はハッカーサイドに飯塚さんがいる。

特定の許可制ネットサロンに、その手口を全て漏らしていた。

「飯塚さんは、世界中のハッカーたちをランダムに自分の仲間にしたっていうことか」

「そうだ。技術力もバラバラ、組織化もされていない世界中のハッカーたちが、今や好き勝手に天命を攻撃している」

IF03。

「もしさん」と呼ばれるそのアカウントを特定することは、不可能に等しかった。

それでも書き込みの内容から推測して、飯塚さんであることは疑いようはない。

俺はコンビニに泊まり込むようになり、竹内の顔ははっきりとやつれ始めた。

二人の打ち込むキーボードの音だけが地下に響く。