深夜の幹線道路を、竹内の運転する車で飛ばす。

現場は山裾をそのまま囲って公園にした森林公園だ。

ほとんど外灯のない暗闇の中を、竹内は迷うことなく歩いて行く。

その後ろを歩く俺は、彼の眼鏡のレンズが実に様々なものを映し出していることを知った。

ただの黒縁眼鏡なんかじゃない。

これが竹内専用の端末モニターだ。

「ここだ」

それは竹内の目には鮮明に見えているのだろうが、俺にはさっぱり見えない。

暗闇に白い何かがあるのだけは分かる。

この公園が造設されたのは、昭和の時代まで遡る。

いま目の前にある立派な噴水は、その当時からあったものなのか、それともこの数時間のうちに入れ替えられたものなのだろうか。

石の年代測定や成分分析をしてもよかった。

だけど破壊前の石の試料がない限り、そんなことをしても意味はない。

破壊前の噴水の資料を調べたが、全体の形は残っていても、その詳細な記録までは分からない。

「この噴水、『本当に』壊されたと思う?」

みかげと言われる白色花崗岩。

どこにでも使われている、よくある石材だ。

「残念だが、今こうしてここに『ある』ということは、『なかった』ことにはならない」

竹内はじっとそれを見つめている。

「今、『ある』のならば、『ある』んだ。それは、壊されたりなんかしていない」

「竹内、お前まで飯塚さんのやったことを、なかったことにしてしまうのか?」

どうやって作り直した? こんな短時間で? 

これは本当のことなのか? 

闇に慣れてきた視界に、白い噴水は浮かび上がる。

飯塚さんが壊したということが、たとえ「嘘」だったとしても、今ここで俺がまたそれを破壊すれば、やっぱりそれは「あった」ことになるんじゃないのか?

部隊支給のタバコを咥える。

本当のタバコなんて、吸ったことはない。

だけど、このタバコが『本当の』タバコであったのならば、爆発なんてしないはずだ。

マニュアルで確認する。

タバコの種類は、フィルターの微妙な色の違いで見分けるらしい。

飯塚さんがあの時にやったのと同じように、火をつけたそれを手にとった。