「磯部くんがいま見ているのは、ちょうどそのシステムね」

画面が切り替わる。

水漏れを示すような警告は、水道局画面では表示されていなかった。

「なんか、おかしくないですか?」

「あのね、実際には、普通に分からないものなのよ」

電話がつながった。

モニターにうつる水道局の事務室に、呼び出し音が鳴り響く。

閑散とした事務所で、受話器を取る職員の背中が映し出された。

ドンッ! 突然の衝撃が地下を揺らす。

いづみと目があった。

「下だ!」

この秘密基地に隠された、もう一つの地下へ向かう。

不吉な音が、俺の鼓膜を刺激した。

「水漏れだ……」

整然と並べられた量子コンピューターのサーバー保管室に、どこからか流水音が聞こえる。

竹内も駆け下りてきた。

「俺はちゃんとゆっくりバルブを閉めたぞ!」

「どっから水漏れが……」

場所を特定しようにも、あっという間に水深が3センチを超えてきている。

「もう遅い。データは本部と共有されている。すぐに上の資材を運び出そう」

「運び出すって、どこに?」

この上の階にはトレーニングジムと戦闘機や潜水艦のデモ機が並んでいる。

さらに上の司令部はどうなる? 

テーブル回りのどれもこれもが、特殊な機械や実験装置だ。

竹内が駆け上がるのに続いて、俺も駆け上がった。

いづみはスプリンクラーを作動させる。

「ごめんなさいね。あなたのアンドロイド、最後まで作ってあげられなくて」

警報の鳴り響くなか、部隊のPCに容赦なく水が降り注ぐ。

「ガス消火設備に変えたんじゃなかったのか!」

大型設備搬送用のエレベーター口が開いた。

貴重な成果物を詰め込んだトラックの荷台が閉じられる。

運転席にいるのは、いづみ? それとも、そのアンドロイド?

「私、ここのこと結構好きだったのよ」

助手席に、もう一人のいづみが乗り込んだ。

「さようなら」

短く切りそろえた髪が、大きく開いた搬送口からの風に揺れる。

それが走り去るのを、俺と竹内はただ見送るしか出来ない。

「い、飯塚さんに連絡を……」

「……無駄だろうな」

竹内はため息をつき、力なく首を横に振る。

「多分、あの二人はグルだ」

『災害時保護モードにより、終了します』

司令部の巨大ディスプレイはそう言い残し、自ら黒く暗転した。