「……。俺、まだR38になつかれてないんですよね」

動物は正直だ。

好きな人には寄っていくけど、警戒する相手には近寄らない。

「そのうちなつくわよ」

いづみはそう言ったけど、そう簡単にはいかないのだ。

誰も見ていない隙に、こっそりハムとか彼のお気に入りのおもちゃで誘ってみても、絶対に俺には近寄らない。

「これで慣らせばいい」

飯塚さんはふいに、大きな黒い羽根を取り出した。

「これを振れば、扱えるように訓練されている」

飯塚さんは羽根を左右に振る。

その羽根の先を腕にちょんとつけると、カラスはその腕に飛び乗った。

「やってごらん」

受け取ったはいいものの、どうしていいのか分からない。

飯塚さんの腕にいるR38は、じっとこっちを見ている。

俺はさっきの飯塚さんのマネをして、それを振ってみた。

「ギャー!」

R38は叫び声をあげ、俺の頭をつつく。

そこに乗ろうとしているのか、つつきたいだけなのかが分からない。

「はは、仲良しじゃないか」

「コレ、俺が襲われてません?」

いづみは羽根を奪い取ると、それを大きく振った。

彼は大空へと飛び立つ。

「重人は、この仕事はやっていけそうかい?」

夕焼けの河川敷、鉄橋の上にカラスが舞う。

「やれるだけのことは、やってみるつもりです」

「そっか。楽しみだな」

その返事に、飯塚さんはにっこりと微笑んだ。