「もしかして、本当に僕本人からかって、疑ってる?」

「いえ、そんなことはないです」

「これは独立した通信手段でね、部隊のシステムからも、どこからも侵入できない。どこにも繋がっていないからね。その分、使い勝手が悪いのは許してくれ」

そう言って、真っ黒な人形は笑った。

「こうでもしないと、なかなか新人くんの話を聞く機会もないしね。部隊隊員の本音を直接聞きたいと思うと、こんなことぐらいしか思いつかないんだ。驚かせて悪かったね」

俺は人形を膝に抱いて向かい合い、首を横に振った。

薄気味悪い人形が、急に大切なもののように思えてくる。

「いえ、大丈夫です。うれしいです」

飯塚さんは、もう一度今日の反省すべきところを復唱し、竹内やいづみの態度について詫びた。

部隊のシステムを早く使いこなせるように、そうすれば仕事は楽になるというアドバイスもくれた。

「時間の許す限り僕も教えるから、何でも分からないことがあったら聞いてほしい。遠慮することはないんだよ。困ったことがあれば、すぐに相談してくれ」

感動で泣きそうだ。

「今日は、午前中はどこへ行かれてたんですか?」

「本部のね、極秘任務でそっちに行ってたんだ」

「極秘任務?」

「まぁ、公然の秘密ってやつだ。僕の口から直接は言えないけど、そのうち分かるよ。いづみや竹内くんも知ってる。言わないだけだ」

ゴスロリ人形は、ため息をついた。

「さぁ、すっかり遅くなってしまった。竹内くんはめちゃくちゃ気合いが入っていたよ。明日から君のための特別メニューを考えてくれているっぽい」

「え、何ですかそれ……」

飯塚さんは、楽しげに笑った。

「あ、あの、最後に一つ聞いてもいいですか?」

「なに?」

「……。なんで、こんなでっかい人形にしたんですか? もっと小型で携帯しやすい機器でもよかったんじゃないかなって……」

「あぁ、それはいづみの趣味だ。これでも頑張って反対したんだよ。じゃなかったら、もっと酷いことになってた」

「分かりました。ありがとうございました」

お休みを言って、通信を切った。

久しぶりに隣の部屋へ移動する。

そこは天井までびっしりと積み上げられた本の隙間に、小さなベッドが置かれている。

もっと小型で持ち運びしやすいものだったら、いつでも連絡とれるのにな。

布団の上の本や電子機器部品を下ろして、その中で横になった。

目を閉じて、ゆっくり眠った。