「常識を疑え。あらゆる可能性を想定しろ。世界は想像を以上に不思議なことであふれている」

 飯塚さんは言った。

「自分の目で見たものだけを信じるんだ」

ドンッと再びテーブルが鳴る。

「だからいっつも隊長に甘いだとか言って、怒られるのよ!」

「それで配属新人がなかなか仕事覚えられなくて、ミスをする。ここ最近、その繰り返しじゃないですか」

いづみと竹内は珍しく同調し、まくし立てる。

竹内は手元のノートPCで何かを操作した。

ディスプレイが切り替わる。

「この後だ。俺はぼんやり座っているお前の代わりに、その乗客全員の行動記録を洗い出した。怪しい履歴はゼロだ。そもそも、今回のオートメーション化された輸送システムを、最初の小屋で確認していたはずだ。お前もいづみの報告を聞いただろ」

「鉄道輸送なんて楽勝じゃない。だって進むべき道は決まってるんですもの。本部に連絡を入れて、マーキングの申請したわ。路線切り替えのある駅舎には、部隊の装備があるって、もちろん知ってるんでしょうね」

いづみのその報告は、支援要請と行動報告も兼ねていた。

「マーキングが成功したら、列車に乗っているのは不都合でしかないわ。路線が変わったらお終いだもの。そのための単独行動じゃないってことくらいは、頭回ってるわよね」

だから電車を降りたのか。

「車で地下鉄の車両を追いかけるのはもちろん無理だ。マーキングしたことで、支援部隊との情報共有が可能になる。後は回収まで任せるのもいいんだけど、あんまり仕事を回しすぎると、後々やりにくくなるのはお仕事あるある」

「お仕事あるある」