「まぁ、それが妥当だと思います」

画面に山間部の最初の駅がクローズアップされる。

「重人の撮った写真はコレだったな」

線路脇にあったプレハブ小屋の内部が映し出された。

入り口から撮影した画像には、びっしりと積み上げられた薄っぺらいトロッコと、PC画像が撮影されている。

「で、これが同じ時に竹内くんの撮った写真」

いつの間に撮影していたのか、竹内は単に端末を掲げているだけではなかったんだ。

トロッコの詳細な細部から小屋の天井と床、四方の壁はもちろん、PC画面とそのメーカーまで、くっきりと映し出されている。

「で、電車に乗ったあと、君は何をしていた?」

俺はゴクリと唾を飲み込む。

「IC乗車券の管理サーバーに潜入しました。俺が乗り込んだのは10両列車の6両目。そこから2両目まで移動しましたが、乗客全員の把握は不可能でした。そこで、IC乗車券の記録を確認して、現在乗車中の人物を特定しました」

「うん、そうだね」

画面には、その時に乗っていた乗客17人のIDが表示される。

「この中に、犯人がいるのではないかと思いました」

「どうして?」

言葉に詰まる。

「だ、大事な何かを輸送するのであれば、俺たちがそうしたように、その荷物について動くと思ったからです」

「で、結局君は、今日その犯人を見たかい?」

「いいえ」

俺は首を横に振る。

「俺たちは見えない敵と戦っている。今日の最後に回収物を本部の支援部隊に渡したのは、そこからは彼らの受け持ちだからだ。事件のきっかけに関わるのが俺たちの仕事で、後の処理はそのプロフェッショナルに任せる。具体的に継続して関わる部署ではないということを、まずは頭に入れておいてほしい」

飯塚さんは、穏やかな表情をこちらに向けた。

「だから俺たちが失敗すると、何にもならないんだ。本部は証拠も材料も手に入れられないわけだからね。指示された任務だけをこなす。警察というより、軍隊に感覚は近いのかもしれない。余計なことは聞かない、知らない。それが全体を守る安全対策にもなってる」

「はい」

「誰が犯人だとか、黒幕がどうだとか、そういうことではないんだよ、重人。有象無象の、それぞれの目には見えない人間の悪意と、俺たちは戦っている」

その柔らかな横顔は、深く沈み込んだ。

「それを間違えるな」

静かに笑みを浮かべる飯塚さんに、俺は「はい」と、力強く返事を返した。