乗り込んだ電車のつり革につかまり、俺はその振動に完全に身を任せていた。

端末にメッセージが入る。

母さんからだ。

『8時過ぎたわよ。まだ帰ってこないの?』

『急に夜バイトの子が来られなくなっちゃって、後の時間も入るようになった。もう先に寝てていいよ』

『晩ご飯はどうするのよ』

『帰ったら食べるから、置いといて』

そう返事をして、端末をしまう。

『明日の朝、帰ったら』と、打とうとしてやめたのは、ちょっとした予感のようなもの。

車窓に流れる夜景はいつも、俺とは無関係にキラキラと輝いている。

コンビニ支部にたどり着く。

20時34分。

悪くないタイムだ。

てゆーか、このルート以外で早く帰れるとしたら、車でぶっ飛ばすか空を飛ぶ以外にあり得ない。

店に入ると、働いている店員は全てアンドロイド店員だった。

相変わらず客はいない。

地下の秘密基地へと潜り込んだ。

「遅っそい!」

上部のコンビニ店舗より、信じられないくらいの空間がそこに広がっている。

あの上物はなんなんだろうと、こういう時には未だに慣れない。

司令台の前に設置されたテーブルで、先に戻っていた3人は食事を始めていた。

上から持ってきたのであろう弁当が一つ、手つかずのまま置かれてある。

俺はそこに腰を下ろした。

「まさか、普通に電車乗って帰って来たんじゃないでしょうね」

いづみは食事中でもいつも、甘い紅茶を飲む。

中華だろうと和食だろうとお構いなしだ。

「空でも飛んできたんですか?」

「は? 空を飛んだかですって?」

彼女の発する冷気で、間違いなくいつか絶対にきっとそのうち俺は風邪を引く。